初診と病気の進行

洞窟の中から差し込む日差し

初診

医師を目の前にすると、先ほどとは違いしっかりした受け答えをする妻。緊張していたのか普段に近い状態になっていました。

医師から説明があったのは次のとおりです。

  • 妻の大声が診察室内まで届いたので、診察順を早くしたこと
  • 産褥期精神病(いわゆるマタニティブルー)であること
  • 産後数ヶ月してから発症することがあること
  • 竹内結子さんと同じように自殺することもあること(※竹内さんの病気の真偽はわかりませんが、当該医師が言っていたことです)
  • 治すには薬を飲まなければならないこと
  • 今後はずっと授乳できないこと(母乳を介して薬の成分が次女ちゃんに移行するため)
  • 通院が必要であること

医師の説明を落ち着いて聞いていた妻でしたが、診察室を出ると再び異常行動を起こします。そんな妻を横目に会計し、長女ちゃんと合流しました。長女ちゃんは、スタッフさんが優しく接してくれたようで、楽しく過ごせたようです。

処方箋を持って薬局に行こうとしたときに、長女ちゃんの面倒を見てくれていたスタッフさんから

「入院などについて、お困りのことがあれば、いつでも連絡してください」

と言ってくれました。

薬局にいる間も、大声をあげる妻に私は不安を感じつつも、薬を飲んで改善するだろうと希望を持っていました。

帰宅後、妻は急に授乳を始めました。発症してからずっとしていなかったのに。薬を飲んだら、次女ちゃんに授乳できないのがショックだったのでしょう。長女ちゃんは保育園までほぼ母乳で育てただけに尚更です。妻の無念さを思うと、私は、涙を堪えるのに必死でした。そして、「今までおっぱいをあげてくれてありがとう。」と声を詰まらせながら伝えるのが精一杯でした。

そんな感傷にずっと浸っているわけにもいきません。服薬です。

妻に薬を飲むよう言うと、

「薬は飲まない」

やっぱりか。予想していた言葉ではありましたが、私は落胆を隠せません。何とかして飲むように頼むのですが、クリニックに連れて行く時と同じように説得する体力や忍耐がもうなくなっていました。

義母も妻に促しますが、効果なし。まさにお手上げ状態。仕方ないので、様子見するしかありません。こうして、初診日を終えるのでした。

病気の進行

1月6日のできごと

妻の状態はますます悪化していきました。

  • ほぼ寝ない
  • 何も食べない
  • 水だけ飲む
  • おしっこのためトイレに入ると、トイレットペーパーを散乱させる
  • トイレの中にあるものをメチャクチャにする
  • 私の姿が見えなくなると裸足で家を飛び出して車に轢かれそうになる
  • 義父や私を蹴る
  • 家族を寝かせない
  • 突然、部屋に入ってきて「神がやってきた」と言う
  • ハリーポッターの呪文(ウィンガーディアム・レヴィオーサ)を連呼する
  • 当たるも八卦と連呼する
  • 家庭用火災報知器のヒモを引っ張って警報を鳴らす

時間が問題を解決するような状況ではない。ほとんど寝られていない私や義母の体力や精神力も限界が近づきます。ワラにもすがる思いで、クリニックに連絡しました。

私が「妻が薬を飲まず、症状がひどくなっています。どうしたら良いのでしょうか?」と言うと、

スタッフ(精神保健福祉士)の方の説明は次のとおりでした。

  • クリニックでは入院が必要であると判断した
  • 勝手ながら、紹介状をクリニックから直接、病院に送付した
  • 妻が若い女性なので、できるだけ清潔な病院を選んだ(病院が嫌いになり、症状の悪化や退院後の通院に支障が出る可能性があるため)
  • 家の距離を考慮すると候補の病院は2つある
  • コロナの影響もあり、現在、いずれの病院も満床である
  • 2つのうちの1つのA病院はベッドに空きが出るか不明である
  • もう1つのB病院については12日に受診し、入院が必要と判断されればその日のうちに入院となる
  • 暴力を振るわれたら、迷わず警察に連絡すること

この時から、「妻を入院させること」が目標となりました。

入院に向けて

まず、住んでいる自治体の保健センターに連絡しました。保健師さんのサポートが必要であると妻のお姉さんから言われたからです。

保健師さんからは

  • クリニックのスタッフと保健センターが連携をとること
  • 夫(チューヨー)や次女ちゃんの状態が気になるので、訪問させてほしいこと

を伝えられました。

私は、妻の状態を考えると絶望感に満たされていましたが、クリニックと保健師さんの言葉を聞いて、希望を持ち続けることができました。

そして、夜には義父も手伝いに来てもらい、チューヨー、義母、義父の3人で妻や次女ちゃんの面倒を見る生活が始まります。

家族総出での体制(1月7日のできごと)

妻がほとんど寝ないため、常に誰かが見張らないといけないが続きます。

そのため、交替で寝る体制をとりますが、寝ようとする人の部屋に入ってきて大声をあげたり、壁を蹴ったり、火災報知器の警報がなったり、とても寝られません。

そこで、さらに親族にヘルプを頼むことになりました。主な役割分担は次のとおりです。

入院手続き、次女ちゃんの世話、買い物
義母妻の見張り、家事
義父妻の見張り
義姉日中に妻の見張り、次女ちゃんの世話
実姉日中に長女ちゃんと次女ちゃんの世話

総勢5人で、妻、長女ちゃん、次女ちゃんを見る体制です。家に最大8人がひしめく異常事態では、とても寝られません。さらにストレスも蓄積していきます。

この日、クリニックから連絡がありました。内容は、

  • 入院できるか不明であったA病院が最速で1月9日に入院できる可能性がある
  • ただし、空きが出るかは当日にならないとわからない
  • 空きが出れば1月9日午前中に病院から連絡がある
  • 受診してから入院の必要性が判断される

とにかく入院してくれれば何でも良い、そんな気持ちでした。

家庭崩壊への序章(1月8日のできごと)

この日は、私、義母、義父、実姉の4人態勢です。

昼過ぎに保健センターから連絡があり、

  • 当日の夕方頃に私と次女ちゃんの様子を見るため家庭訪問する
  • 難しそうなら妻は同席しなくても良い
  • 妻には次女ちゃんの発育状況の確認ということで伝えた方が刺激しなくてすむ
  • 子ども家庭センターの担当者も同席する

以上のように伝えられました。

私は、買出し、次女ちゃんの世話等に追われており、あっという間に夕方になります。家にいるメンバーに家庭訪問があることを説明しますが、妻の見張りをする義母に説明ができていませんでした。

そうして家庭訪問があり、保健師さんと子ども家庭センターの職員2名が私と面談することになりました。保健師さん達からは、

  • 家庭の現状確認
  • 希望すれば、次女ちゃんを優先的に保育園に入園させられること
  • 長女ちゃんを小学校入学と同時に学童保育に入れられること(締切りはとっくに過ぎていますが優先的に入れていただけるそうです)
  • 妻は明日、入院となると病院側から聞いていること

以上のように、妻が入院しても以前のように私が仕事ができるように考えていただきました。

妻の状態も可能であれば確認したいとのことだったので、2階にいる妻と義母を1階に呼びました。その時に妻には、「保健師さんが次女ちゃんの健康状態を確認するため」と伝えましたが、理解していたのかわかりません。

ここでも妻は大暴れ。保健師さん達にカタコトの英語で話したり、ハリーポッターの呪文を連呼します。我々は予定通りに次女ちゃんの状態確認と称して体重測定等をするのでした。

保健師さんは、妻の状態に少し驚いていました。というのも次女ちゃんが産まれてすぐに家庭訪問し、発症前の妻と面談しているので変貌ぶりがわかるのです。

義母はというと、妻をほったらかしにして、必死に保健師さん達にご自身の考えや気持ちを伝えていました。すると、その場がカオスと化します。次女ちゃんの健康状態を確認する人、妻のわけのわからないことを聞く人、お母さんの気持ちを聞く人。すでに17時をとっくに過ぎています。収集のつかない状況に、保健師さんに要件が済んだことを確認し、私は何とか帰ってもらうことにしました。保健師さん達も状況を察し、退室していきました。

強制終了となりましたが、私や保健師さん達の用事が済んで一安心です。そして、妻が明日に入院できる可能性が高まったことに希望が膨らんでいました。

ただし、そのような状況を苦々しく思っている人がいたのでした。

義母でした。

私が安心し、今日の家事や明日の準備について考えている中、家庭を戦慄させるひと言を放ったのは次の瞬間でした。次の記事に続きます。

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