初めて精神科に受診するにはどうしたら良いのでしょう?家族を連れて行くときの注意点はなんだろう?何も知らなかった私が、妻を受診させた手順について解説します。
登場人物について
ここで、今後の登場人物についてまとめます。
チューヨー家
チューヨー | 平凡なサラリーマン30代男性。 |
妻 | 発病前は平凡な会社員30代。発病当時は育休中。 |
長女ちゃん | 地元の幼稚園に通う元気な6才の女の子 |
次女ちゃん | 生後5ヶ月の寝返りもできない乳飲み子 |
チューヨーの肉親
実兄 | チューヨーの兄。実家で母と暮らす。未婚。片道1時間くらいの所に住む。 |
実母 | チューヨーの母。実家で兄と暮らす。片道1時間くらいの所に住む。 |
実姉 | チューヨーの姉。夫と息子の3人暮らし。片道1時間くらいの所に住む。 |
妻の肉親
義母 | 妻の母。遠方でお父さんと暮らす。 |
義父 | 妻の父。遠方でお母さんと暮らす。 |
義姉 | 妻の姉。夫と子どもの4人暮らし。片道1時間くらいの所に住む。 |
家庭崩壊の危機!?
兄から最後通牒を渡された私は、遠方に住む妻の両親に連絡しました。電話で妻の状態をうまく伝えられたか、わかりませんでしたが、深刻な状況だと理解してくれました。本日中に終電で義母が来てくれることになりました。
この頃には、妻は次女ちゃんの授乳をしなくなっていたため、私がミルクをあげることになりました。そこで悩んだのはいつも何mlを飲んでいるのか?
完全母乳だったため、全くわかりません。適当に200mlをあげてみることに。何と、全て飲み干しました。一般的には5ヶ月の赤ちゃんでは1回でミルクの量が100ml前後です。相当お腹が空いていたのでしょう。にもかかわらず、次女ちゃんが泣いたりせず、静かに過ごしているのが不思議でした。この後も次女ちゃんの不思議な状況がしばらく続くこととなります。
義母は深夜に家に到着しましたが、それまで兄はずっと一緒にいてくれました。そして兄が終電で帰る時間となったとき、私は兄と義母の前で泣いてしまうのでした。
この時の心境は以下の通りでした。
- 先が見通せない不安
- 頼りの兄がいなくなること心細さ
- 義母への不安
最後の「義母への不安」は、妻の両親と良好な関係が築けていないことが原因です。
義母は、人を小馬鹿にしたり、何かと他人の行動に否定的な考えを持っていました。田舎の出身なので、考え方が古く、柔軟性に欠けるといった印象です。私たちの子どもが生まれても、何かと口を出す、私にとっては目の上のたんこぶのような存在でした。
一方、義父は、自身の考えが全くなく、義母の言いなりで、頼り甲斐のない人でした。私は私で、義母や義父にあまり遠慮もせず、軽視してました。お互い様といった感じの関係でした。
そんな思いもあり、兄が帰るとなった時に思わず涙が出てしまったのでした。
義母がいなければ買い物も各種手続きも何もできません。妻や次女ちゃんの面倒を見れるのは大変ありがたい。居て欲しくないなどと言える状況ではありません。複雑な心境の中、私と義母の共同戦線が張られることとなりました。
チューヨー家の手がかかる人ランキング
突然ではありますが、ここでこの頃の状況を分かりやすく説明するため、手がかかる人をランキング形式で発表します。(自分自身で食事の用意、入浴ができない人のみ)
1位 | 妻 |
2位 | 次女ちゃん |
3位 | 長女ちゃん |
家庭へのダメージで最も大きいのは、つい2〜3日前まで家事ができていた妻が常に誰か大人が付きっきりで見なければならない状態となったことです。言い方が悪いのですが、妻がいなくなるよりも更にマイナスが大きいため、一気に家庭崩壊へとつながりました。
精神科の受診前に準備すること
最難関!?の初診(1月5日のできごと)
翌日、私は職場にしばらく出勤が難しいことを説明しました。なにしろ、解決の糸口が全くなく、これからどうなるのか見当がつきません。上司は、
「職場のことは考えなくて良い」
と言ってくれました。理解のある方で非常にありがたかったです。
そして次は、妻を精神科に受診させなければなりません。
精神科について無知の私は、インターネットを使って受診の手順を確認しました。電話予約ができる病院1軒と駅から近そうなクリニックを1軒チョイスし、連絡しました。
1軒目の病院は、なんと初診の予約が半月先まで埋まっているとのこと。そんなに待てるような状況ではないので、予約は保留しました。
クリニックは、本日の夕方から診察ができるので予約しました。医療機関によってまちまちなのは、コロナの影響なのでしょう。
用意しておくものリスト
予約が完了しましたが、診察前に用意しておくものがあります。
- 問診票
- 妻の健康保険証
- 妻の同意
順番に説明します。
問診票について
問診票がクリニックのホームページに掲載されているので印刷して、事前に記入しました。
内容は風邪をひいた時に内科でもらうものと同じようなものです。しかし、精神病は見た目だけではわからない(妻の状態だったら、行動ですぐにわかるかもしれませんが…)ので、なるべく詳細に記入する必要があります。
ましてや、妻は自身の症状を説明できませんので私が書くしかありません。また、病気ではないと判断されたり、異なる病気と診断されても困ります。書き漏らしがないように注意しました。
問診票を書くときのポイント
何を書くのか迷ったときは、以下のように記入しましょう。
- 何ができなくなったのか
- 何をするようになったのか
- それらによって、どのように周辺が困ったのか
私は、以上をなるべく客観的に書くことを心がけました。
実際に記載したのは、
- あまり睡眠を取らないこと
- 水以外に何も口にしなくなったこと
- 近日中に地震が来ると言って不安になっていること
- 家の中を行ったり来たりすること
- 目についた物の名前を連呼すること
- 他人に大量のLINEスタンプを送ること
- 用もないのに隣家のインターホンを押すこと
- トラックの運転手が知り合いだと思い、車の前に出て停車させたこと
- 育児ができなくなったこと
- 入浴ができなくなったこと
- 妻が何をするかわからないので大人が付きっきりで見ていなければならないこと(詳しくは前回の記事を参照ください)
- 以上のことで育児はおろか、私が仕事にも行けず、通常の生活が送れないこと
妻の健康保険証と同意について
次に健康保険証です。妻に精神科を受診するため健康保険証がどこにあるか聞くと、
「精神科には行かない」
と言うのです。自分が病気であることを認めない、または認められない状態なのです。用意する物リストの3つ目が最も重要かつ難関です。
正直、健康保険証が無くても後から何とでもなるのですが、「クリニックを受診するという妻の同意」は必須です。
20mしか散歩ができなかったのですから、無理矢理連れて行ってもクリニックまで到達するのは極めて困難です。
- 精神科を受診するのは特殊なことではない
- 心の風邪みたいなものだ
- 食べてないし、寝ていないからとても心配している
と言って説得してもダメでした。そこで「同意」を得るために私は以下の通り何でもしました。
- 土下座でお願いする
- 涙を流して、感情に訴える
- 「キスしてほしい」と妻が言うので、キスをする(お母さんの目の前で)
もう必死でがむしゃらです。
そして、なんとか「同意」を得ることができました。おそらく、心配や懇願された結果だと思います。
しかし油断なりません。直前になって妻が「行かない」と言い出すかもしれません。この頃に私が考えていたことは、家族として精神病患者とどう向き合い、どう振る舞えば良いのかということでした。クリニックでは患者家族のカウンセリングをしています。妻を連れて行けなくなったときには私だけカウンセリングを受けようと思いました。クリニックに電話し、その旨を伝え、OKをもらいました。
初診
いよいよ、クリニックに行く時間です。予約したクリニックは隣駅にあります。電車で行くのは前述の通り難しいので、自家用車で行くことに。
子どもたちを義母に任せ、出発しようとしたとき予想外の事態が起きました。
長女ちゃんが
「パパとママと一緒に行く」
と言い出したのです。
ママが病院に行くだけだと説明しても、納得してくれません。とうとう泣き出しそうになったため、仕方なく連れて行くことにしました。
このときの長女ちゃんの気持ちがどのようなものだったのか、わかりません。たぶん、このまま妻がずっとどこかに行ってしまうのではないかと感じたのかもしれません。
予約時間がありますので、もたもたしてられません。3人で出発し、無事にクリニック近くの駐車場に駐めて、歩き出したときに面白いことが起きました。
妻の異常行動を抑えるため私が妻の手をしっかり繋いでいました。すると、長女ちゃんが妻の反対側の手を繋いでくれたのです。本来なら子供が真ん中にいるところが、今日は妻が真ん中にいます。変な状況に3人とも少し微笑みながら歩きました。
妻の状態を理解し、長女ちゃんなりに何とかしたかったのでしょう。一方で妻は子供達をほとんど無視していました。しかし、子供が嫌がることもしませんでした。したがって長女ちゃんの手を離すこともせず、すんなりとクリニックに入りました。
受付を済ませ、イスに座り診察を待っていました。待合室には10〜20人くらいの人がいます。割と患者さんが多いのだなと感じていたとき、ここで妻の異常行動が再燃します。
- 待合室にいる他人の老夫婦を私の両親だと言い、話しかけようとする
- 待合室に入ってきた人に立ち上がって話しかける
- 奇声をあげる
私は、精神科クリニックでは異常行動を起こす人がいても不思議ではないだろうと変な考えを持っていました。しかし、このとき間違いだと気付きました。待合室にいるほとんどの人がこちらを見ています。ここでも普通じゃないんだなと認識しました。
そして、クリニックの女性スタッフさん2名が慌ててやってきて、長女ちゃんを別室に連れて行ったのでした。親の異常行動を子供に見せるのは児童虐待にあたることを後々、知ることとなります。
そんな妻の迷惑行為に対して別のスタッフさんが妻に問いかけます。
「治療したいという意思がありますか?無いのであれば診察することはできません」
私は「そんな意志があれば苦労しないよ」と思いました。同時に妻の答え方によっては「治療することができなくなってしまう!やばい!どうしよう!!」と焦りました。
やっとのことで妻をここまで連れてきたのに社会は私達に救いの手を差し伸べてくれないのか。そんな絶望感でいっぱいでした。
しかし、ここで奇跡が起きます。
妻 「はい」
「えっ!?まじ!?」私は本当にほっとしました。首の皮一枚残った感覚です。
少しすると診察室に呼ばれるのでした。